2023年現在Web3市場は冬の時代を迎えていますが、そのような中でもdocomoや博報堂をはじめとした国内大手企業が次々とWeb3事業への参入を表明したり、政府がWeb3を国家戦略に据えたりと前向きな姿勢を示しています。
また、水面下では世界中の企業がWeb3事業に参入しており、日々新しいサービスが生まれています。
なぜ、彼らは冬の時代にもかかわらず、Web3に注力しているのでしょうか?
そして、どのような事業が展開されているのでしょうか?
本記事では、Web3事業を以下の様式に分類し、それぞれの代表的なサービスや、これまでの事業との違いについて解説します。
ただし、Web3事業の真の意味を把握するにはWeb3が注目を浴びるようになった背景やWeb3が社会に及ぼす影響について理解することが必要なため、最初に「なぜWeb3が注目されているのか」について詳しく解説します。
本記事は、0x Crypto Research全体の根幹となる記事ですので、最後までお読みいただけますと幸いです。
この記事の目次
なぜ今Web3が注目されているのか
近年、Web3への注目が高まっている理由は、単に革新的な技術が生まれたからではありません。
インターネットの発展と共に新たな社会的課題と不満が拡大しており、それがWeb3の技術で解決しうると期待されているのです。
まずは、インターネットの発展を通じて社会がどのように変わったのかを見てみましょう。
世界中の情報にアクセスできるようになったWeb1時代
インターネットの登場により、人々の生活は大きく変わりました。
インターネットが登場する前、私たちがアクセスできる情報はテレビ、新聞、ラジオ、雑誌といったメディアが主であり、情報は限定的かつ非常に操作されたものでした。
しかし、インターネットが登場し、個人が情報を発信できるようになったことで、ユーザーは世界中の情報を一瞬で入手できるようになりました。
ただ、この時点では、情報の伝達は発信者から受信者への一方通行でした。
双方向のコミュニケーションが可能になったWeb2時代
2000年代に入り、ブログやSNS、動画共有サイトなど、ユーザーが主導してコンテンツを作成・共有できるプラットフォームが登場しました。
それまでは情報が発信者から受信者への一方通行であったのに対し、双方向のコミュニケーションを行えるようになり、対話的なものへと進化しました。
その結果、個人が広告収入を得られるようになり、インフルエンサーのような新たな仕事が生まれました。
このように、Webの進化は人々の生活を便利にし、ユーザーに「個人で仕事をする」という選択肢を与えるなど世の中の可能性を大きく広げたのです。
しかし同時に、Webの進化はさまざまな社会問題をも生むことになりました。
Web2が生み出した社会問題
高まる個人情報漏えいのリスク
SNSを含む様々なプラットフォームは、ユーザーの個人情報を収集してAIで解析し、サービスを常に使いやすく進化させてきました。
しかし同時に、世界中の人々の個人情報がFacebookやGoogleなど特定のプラットフォームに集中したことで、情報漏えいのリスクが高まってしまいました。
実際、2021年にはFacebookから5億3000万人以上の個人情報流出事件が起こり、深刻な社会問題へと発展しました。
ユーザーにデータの所有権がない
Web2では、データは企業が管理し、所有権も企業が持っています。
そのため、ユーザーはいくら支払っても得られるのは閲覧権や使用権のみで、企業が倒産やサービス終了の際には、データ利用が不可能になります。
例えば、ソーシャルゲームで獲得した高レアアイテムも、サービスが終了すると使用できなくなります。
また、企業は独自の判断でユーザーのアカウントを停止でき、Amazonで購入した電子書籍がある日突然読めなくなるというケースもありました。
特定の企業に富と力が集中しすぎる
プラットフォーム事業では、ユーザー数の増加に伴いデータが蓄積されることで利便性が向上し、サービス価値が高まります(これをネットワーク効果と言います)。
この結果、GAFAを代表とする一部の企業がユーザーや富を独占し、強大な力を持つようになりました。
スマホアプリの販売においては通常Apple StoreやGoogle Playを利用しますが、その際、売上の30%を手数料としてAppleやGoogleに支払う必要があります。
このような構造により、一部の企業が他社を圧倒し、企業間の健全な競争が起きにくくなってしまいました。
資本主義の限界
Web2とは異なる文脈で、資本主義の構造そのものに限界が訪れているという社会問題があります。
資本主義は株式に基づいており、企業が得た利益は株主に分配されるため、企業にいくら貢献しても株を持たない限りは大きな利益を得ることができません。
このため、貧富の差が拡大し続け、深刻な社会問題へと発展しました。
近年、このような社会問題が表面化し不満の声が高まりつつある中で、Web3技術を活用することで問題を解決できる可能性が見出されたことで、Web3が注目され始めたのです。
Web3でできるようになること
Web2の世界では、便利な生活と引き換えに巨大な企業が中央集権的に君臨したことで、様々な社会課題が生じました。
Web3の技術は、このような中央集権的な状況に対するアンチテーゼとして発展しており、支配者のいない「分散的な世界」が大きなテーマとなっています。
Web3における分散性とは
これまでのWeb2では国や企業が管理するサーバーにデータを集約していたのに対し、Web3では複数のパソコンに分散してデータを管理し、共通の台帳でそのデータ可視化します。
データを複数のパソコンに分散させることで、ハッキングがほぼ不可能となり、セキュリティが堅牢になります。
また、誰かがデータを独占することなく、個人がデータを所有できるようになりました。
このようなWeb3の世界では、Web2と比較して以下のような特徴があります。
- トラストレス・透明性・自動執行
- オープンアクセス・パーミッションレス・プログラマビリティ
トラストレス・透明性・自動執行
トラストレスは、「信用がない」ではなく、「そもそも信用する必要すらない」という意味です。
私たちはサービスを受ける時、そのシステムや関わる人を「信用すること」が必要であり、裏返すと「何かしらのトラブルが発生するリスクを大なり小なり負っている」ということです。
不動産や保険を購入する際は、できるだけ信用できる不動産会社やその営業マンと契約しますが、会社が倒産したり営業マンの不正リスクを許容しているということでもあります。
しかし、Web3ではブロックチェーン上に一度刻まれたプログラムは改ざんすることができないため、確実に指定したプログラムを遂行してくれます。(これを自動執行といいます)
また、ブロックチェーン上での取引履歴は全て公開されているため、何かしらの不正取引が行われても追跡できます。(これを透明性といいます)
つまり、取引において「もしかしたら」の心配が不要なのです。
このようなWeb3の世界では、「信用できる仲介人」が不要であり、高速で低コストなユーザー間取引が可能となります。
オープンアクセス・パーミッションレス・プログラマビリティ
従来のWeb2においては、情報やサービスの提供者が独自のプラットフォームを運営していたため、参加者はそのプラットフォームのルールに従う必要がありました。
それゆえに企業の一存でアカウントBANなどが行われたり、ログインやサインアップに企業の承認が必要でした。
一方でWeb3では誰でもアクセスできるオープンなネットワークでやりとりをするため、誰でもネットワークに参加できるし(オープンアクセス)、承認を得ずともアプリを使用することも可能なのです(パーミッションレス)。
また、開発者はWeb3のオープンネットワーク上で他者が開発したプログラムを自由に書き換えたり組み合わせたりすることで新しいアプリケーションを開発できるため、開発にかかる費用も時間も削減できます(プログラマビリティ)。
以上の特徴はインターネットの中だけでなく、IoTなどを通じて現実世界にも影響力を発揮し、将来的にあらゆる産業のあり方を変えると言われています。
ほとんどのプロジェクトは開発段階にありますが、既に運用が始まっているプロジェクトも多数ありますので、その具体例を見ていきましょう。
Web3プロダクトの構造
Web3の構造は、いくつかの層に分かれており、この分類をテクノロジースタックと言います。
テクノロジースタックの分類には様々な意見があり統一されていませんが、本記事ではユーザーが直接触れるアプリケーションレイヤーと、ネットワーク等の裏側で動作しているプロトコルレイヤーの大きく2層に分けて話を進めます。
プロトコルレイヤー
Web2でいうところのHTTPやIPのように、ネットワークの基盤となるレイヤーです。
Web3では、レイヤー1、レイヤー2、ノードのように、Web2とは全く異なる技術が用いられています。
アプリケーションレイヤー
アプリケーションとして、実際にユーザーが触れるレイヤーです。
Web2のアプリケーションがApps(applications)と呼ばれるのに対して、Web3のアプリケーションは、dApps(decentralized applications)と呼ばれます。
Web3はWeb2の時よりもプロトコルレイヤーの重要性が高く、長い時間をかけて整備されてきましたが、市場規模という側面ではアプリケーションレイヤーがユーザーに届き始めた瞬間に一気に拡大しました。
そのため、ビジネスという意味においては、秀逸なアプリケーションをどれだけユーザーに届けられるかということが、重要なポイントになります。
そのため、本記事ではアプリケーションレイヤーのWeb3プロジェクトに言及して、解説いたします。
※本記事ではテクノロジースタックを大きな括りにしているため、例えばwalletなどのインフラレイヤーのプロダクトをアプリケーションレイヤーの括りで紹介していたりといった曖昧さがありますこと、ご容赦ください。
Web3を活用したプロジェクトの分類
現在運用されているWeb3プロジェクトは、NFT(Non-Fungible Token)とFT(Fungible Token)の組み合わせで設計されており、以下の4つのパターンに大別されます。
- NFTを用いるパターン
- FTを用いるパターン
- NFTとFTを併用するパターン
- NFTもFTも用いないパターン
NFT(Non Fungible Token)
NFT(非代替性トークン)は、替えの効かない唯一無二のトークンです。
デジタルアートやゲーム内アイテムなどのデジタルアセットに付与することで、そのデジタルアセットが唯一無二のオリジナルであることを保証するとともに、その所有権が誰にあるのかを証明することができます。
FT(Fungible Token)
STEPNにおける$GMTのような、各プロジェクトが独自に発行する代替性トークンです。
NFTを用いるパターン
アート・コレクティブル・PFPで、新規IP・ブランドが生み出されている
出発点は「デジタルアートへの価値づけ」
NFTは最初、デジタルアートに価値がつけられるというユーティリティで、注目を集めました。
デジタルアートは保管場所が不要であるという利便性と、デジタルならではの表現が可能であるという芸術性が、資産家をはじめとした特定のユーザーに受け入れられたのです。
コレクティブルNFTがSNSのプロフィール画像(PFP)として利用され始める
その後、NFTアートは新しいIP(キャラクターやブランド)を創る流れが主流になっていきます。
最初期のIPとしては、収集性の高いNFT(コレクティブルNFT)としてCryptoPunksが登場し、億単位で取引されたことで注目を集めました。
このようなNFTは、主にSNSのプロフィール画像(PFP)として使われはじめ、一つの大きなジャンルとなりました。
コレクティブルNFTが一大IPとして昇華!有名ブランドも続々と参入
その後、さらにIP化の動きは加速し、NFTに様々なユーティリティをつけたNFTアートが登場しはじめました。
同じくコレクティブルNFTアートのBAYC(Bored Ape Yacht Club)は、ゲームやメタバース、NFTホルダー限定イベントなどを展開し、独自の世界観を現在進行形で創り上げています。
the last minute of my 550K dookey dash run. For anyone wondering what it looks like. (NO AUDIO)@BoredApeYC @EverydayZukini pic.twitter.com/Xls33V0wDk
— Orangie (@orangie) January 25, 2023
↑BAYC発のNFTゲーム “Dookey Dash” のプレイ動画
↑BAYC発のメタバース”Otherdeed for Otherside”トレーラー動画
#ApeFest2022, thank you! 🙏🏻☺️
— teqi.eth 🍌🌱 (@boredape7275) June 24, 2022
It was a blast. Love you all. 🥰@BoredApeYC pic.twitter.com/WB34Mmm4lY
↑NFTホルダー限定イベント “APEFEST 2022 “
また、NFTホルダーにはキャラクターの商用利用を許可しており、自然発生的に多方面に展開されています。
NFTホルダーによるBAYCのIP展開
・オリジナルストーリーの動画が制作される
・BAYCをモチーフにしたイベントが開催される
・有名アーティストのミュージックビデオに起用される
・CoinDeskにて映画が制作される
・Tシャツやスマホケースなどのグッズが制作・販売される
・コーヒーショップ等の実店舗でイメージキャラクターに起用される
↑Eminem & Snoop Doggのミュージックビデオ
このようなNFTホルダーによる展開もあり、2021年4月にリリースされたBAYCは、短期間の間に有名なIPとして成長しました。
このように、NFTアートはホルダーと共に短期間でIPを創り上げていけるポテンシャルを秘めています。
最近では、NIKEがNFTホルダーと共に新しいブランドを創り上げるを試みを始めるなど、既存の企業も参入してきています。
アート・コレクティブル・PFPの事例
・CryptoPunks
・BAYC
・Azuki
・NBA Top Shot
・Doodles
・Murakami.Flowers
・Clone X
チケット・会員権のNFT化でユーザー間売買と資産の分割所有が可能に
オンラインチケットや会員権をNFT化することで、スマートコントラクトに従って簡単にユーザー間取引ができるようになりました。
この技術は、キャンセルが問題になる事業と相性がよく、宿泊業/飲食業/セミナー・イベント業をはじめとして既に導入が進められています。
また、不動産などの資産をNFTをひもづけることで容易に分割所有できるようになるため、不動産業界でも積極的に取り組みが進められています。
別荘を分割所有・レンタルできる “NOT A HOTEL”
例えばNOT A HOTELという別荘を分割所有するプロジェクトでは、NFTホルダーは指定した日にちに宿泊できる他、急な用事などで宿泊できなくなった場合にはホテルとして他人に貸し出すこともできます。
ホテルとしての貸し出しはスマートコントラクトで自動執行されるため、相手さえ見つかれば即座に対応できます。
NFTチケット・会員権を発行するNFTプラットフォーム “neuto”
同様に、NFTのチケットや会員権を発行するプラットフォーム事業も展開されています。
リゾート会員権プラットフォームのneut(ニュート)は、宿泊事業者と提携し、これまでアナログだった会員権をNFT化することで、オンラインで簡単・自由に売買できるようなサービスを提供しています。
チケットや会員権のNFT化は、ユーザーと事業者双方のキャンセルリスクを低減するという高い有用性があるため、今後、急速に社会実装されていくことが予想されます。
顧客ロイヤリティ向上を狙うNFT会員制プログラム “Starbucks Odyssey”
また、会員権をNFT化して、顧客ロイヤリティを向上させる試みも行われています。
スターバックスでは、既存の会員プログラム「Starbucks Reword」の延長線として、NFT会員権の「Starbucks Odyessey」を発行しました。
NFT会員権のホルダーは、ジャーニーと呼ばれるクエストをクリアすることでNFTスタンプを獲得し、獲得したスタンプに応じて特典が受けられるという仕様です。
NFTは売ることもできるため、単なるポイントよりもインセンティブが働きます。
そして、そのインセンティブを利用して、ジャーニーにスターバックスやコーヒーについて深く知ってもらうクエストを組み込むことでロイヤリティを向上させているのです。
※NFTを活用したロイヤリティ向上施策の事例については『NFT活用事例|スターバックスの成功とポルシェの炎上を分けたものとは』をご一読ください。
チケット・会員権の事例
NFTの分散性を活かした高セキュリティシステム・証明書の開発
認証カードのセットアップや譲渡を手軽にする “NFT認証スマートロック”
分散性による高いセキュリティを生かして、NFTを使ったセキュリティシステムや証明書などの実証実験が行われています。
例えば、ガイアックス社とフォトシンス社はシェアオフィスでの活用を想定したNFT認証スマートロックを共同開発し、実証実験を行っています。
利用者同士のNFTの譲渡により、スマートロックの操作権限の移転が可能になるため、利用者登録などの物理的なセットアップが必要なくなるなど、より効率的な入退室管理が可能になります。
また、従来のカード型の会員証はセキュリティや管理上の制約などから、本人以外への譲渡や貸し借りが禁止されることが一般的でした。NFT会員証であれば、利用者同士の同意などにより譲渡が可能になります。
ガイアックス社公式サイト
医療機関同士の連携をスムーズにする “NFT処方箋”
また、医療の分野では、処方箋をNFT化する実証実験が始まっています。
これまでは医療機関ごとにカルテが散在していたり、管理方法がサイロ化されていて連携が難しく、基本的に紙ベースでの連携が行われていました。
しかし、この紙ベースでのやり取りだと容易に改ざんできるという課題を抱えていました。
そこで、処方箋をNFT化して改ざんできなくすると同時に、医療機関同士をシームレスに連携させることを試みています。
ユーザーは、事前に登録した基礎疾患や常備薬の情報と合わせてNFT処方箋を薬局に共有すると、それらの情報をもとに調剤および服薬指導が開始され、
ユーザーは東京白金台クリニックで発行されたNFT処方箋をID管理型ライフログ「mine」で管理します。事前に登録した基礎疾患や常備薬などの情報と合わせ、調剤薬局へNFT処方箋を共有、調剤薬局はそれらの情報をもとに調剤・服薬指導を実施したのち配送会社へ配達を依頼します。
最短で当日中に自宅(もしくは任意の場所)で処方薬を受け取ることができます。
プレスリリース
他にも、職務経歴書をNFT化するなど、様々な分野でプロジェクトが進行しています。
現在は実証実験レベルのものが多いため、一般の方の目に触れる機会は少ないですが、汎用性が高いため、将来的に多くのビジネスの基盤に組み込まれる可能性があると言われています。
FTを使うパターン
FTは、もともと「中央集権的に価格がコントロールされる法定通貨が本当に安全か」という疑問を背景に、誰もが管理しない通貨として誕生しました。
そのため、既存の金融サービスをFT版に置き換えた「DeFi」が、早い段階から開発されました。
また、最近ではFTやNFTを報酬としてユーザーに提供することで、マーケティングやコミュニティ形成に利用するサービスも出てきています。(トークンインセンティブ)
既存金融業の上位互換となる “DeFi”
DeFi(分散型金融)は、法定通貨からFTへと金融を置き換えるというコンセプトで開発されたもので、既存の金融と比較して以下のような利点があります。
海外送金では通常複数の中間業者が関与するため、時間と手数料がかさみます。
しかし、Web3を利用するとユーザー間で直接FTを送ることができるため、時間と手数料が大幅に削減できます。
また、海外では一定の資産がないと銀行口座を開設できないケースがほとんどですが、ウォレットなら誰でも無料で作成できます。
特に発展途上国では、初めての口座がウォレットである人も少なくありません。
加えて、FTは自分のウォレットで管理できるため、利用している金融サービスが破綻しても資産を守ることができます。
このように、利便性においてDeFiは既存の金融業を上回っており、今後世界中の資産のうち無視できない割合がFTへ移行することが予想されます。
そのため、三菱東京UFJ銀行やdocomoをなどの大手企業が、積極的にDeFiへの参入を進めています。
DeFiプロジェクトの事例
新しいマーケティング手法となりうる “トークンインセンティブ”
トークンインセンティブは、Web2時代には存在しなかった新しいマーケティング手法で、広告費の一部をトークン(FT or NFT)という形でユーザーに還元するアプローチです。
サービスを利用してくれたユーザーに、トークンを還元することで、商品の購入や継続利用を促します。
トークンインセンティブは様々なサービスに適用可能ですが、現時点では主にB2Cサービスで適用されています。
例えばBraveというブラウザは、ユーザーが広告の表示・非表示を選択でき、表示を許可するとFTを報酬として受け取ることができる仕組みになっています。
従来のWeb2の広告では、ユーザーの個人情報が収集されることが一般的で、企業はそのデータを活用してビジネスを行っていました。
しかし、Braveのようなビジネスモデルではユーザーは個人情報を提供する代わりに報酬を受け取ることができるため、ユーザーから見て納得度の高い仕組みと言えます。
サービスを通常通り利用するだけでトークンをもらえるという点が、ユーザーの興味や継続利用を促す心理効果を引き出しているのです。
※トークンインセンティブの詳細については「トークンエコノミーが世界を変える|参入への課題と対策」をご一読ください。
他社のWeb3事業参入をサポートする “プラットフォーム事業”
プラットフォーム事業は、基軸通貨となるFTを発行し、サードパーティを含む多様なコンテンツをプラットフォーム上に展開するビジネスです。
これは、FTを活用した事業を展開したい企業にとって、メリットのある事業です。
自社でFTを発行する場合、以下のことが起こります。
- 専門的な知識が必要で
- 複雑なトークン経済圏の構築が求められ
- さらに国によっては規制がかかる
さらに、FTの価格が乱高下しないような設計と、Web3ならではのマーケティングも必要となるため、Web3に新規参入する企業にとって非常にハードルが高くなっています。
しかし、サードパーティとしてプラットフォーム上でコンテンツを展開するのであれば、これらの問題の多くがクリアされます。
「LUXON」のように特定の分野に特化したプラットフォームもあれば、「PlayMining」のように幅広い事業領域をカバーするプラットフォームもあります。
プラットフォームの事例
NFTとFTを併用するパターン
「支援活動」や「嫌なことの習慣づけ」に大きく貢献したGameFi
GameFiは、ゲームアイテムをNFTに、ゲーム内通貨をFTに置き換えたゲームです。
プレイヤーは、NFTを購入し、そのNFTを使ってゲームをプレイします。
既存のWeb2ゲームでは、ゲームデータはゲーム会社のサーバーで管理されており、所有権も企業側にありました。
そのため、課金してレアアイテムを獲得しても、苦労してキャラクターを育てても、それを他のユーザーに売ることは禁止されていました。
しかし、アイテムと通貨をNFTとFTにしたことでデータの所有権がユーザーに移り、これらを自由に売買できるようになったのです。
※GameFiはNFTゲーム/Web3ゲーム/ブロックチェーンゲームなどとも呼ばれますが、本記事ではNFTのみを使用するゲームをNFTゲーム、NFTとFTを使用するゲームをGameFiと定義しています。
人々の生活を救った “JobTribes”
Digital Entertainment Asset社(以下、DEA社)が運営するNFTカードバトルゲーム “JobTribes” は、スカラーシップというNFTを貸し出すシステムを搭載することで、NFTを購入する資金がないユーザーにもゲームによって収入を得る機会を提供しました。
これにより、貧困地域や特殊な事情で生活が厳しい人々の生活が、ゲームで獲得したお金を通じて救われています。
ブロックチェーンゲームで斜め上を行ったインドネシア人。
— Mitsushi Ono@DeFimans #web3#DeFi#GameFi#NFT (@mitsushi_ono) May 27, 2021
PlayMining遊んでDEP稼いで、「田んぼ」を買ったらしいwwww「田んぼ」て・・・https://t.co/zmZcPM0I7w pic.twitter.com/8aCoFzJVrN
世界中の多くの人々に運動習慣をつけさせた “STEPN”
さらに、GameFiの仕組みはゲームだけでなく、日常における様々な活動にも利用されてはじめています。
例えばSTEPNは、移動をすることでFT報酬を受け取れる仕組みになっており、多くの人が運動を習慣化しました。
このように、GameFiは「やらなければならないけれどやりたくないこと」を習慣化する効果的な方法としても活用されています。
#stepn 始めて良かったこと
— Hope2Future (@Hope_Crypto) March 13, 2022
・毎日運動習慣復活→確実に健康になってる
・朝ランのおかげで仕事の生産性UP
・上機嫌でいる時間が増えた😇
・酒を飲む機会が減った、減らせた
・嫁と一緒に散歩し、対話する機会が増えた👨👩👧
・人生は金も健康も人間関係も大切だと気付けた
など
というわけでstepn有難う pic.twitter.com/VGSLYpgoyK
※GameFiの仕組みに関する詳細については『X2Eはなぜ注目を集めるのか?P2Eから広がる新たな経済圏の課題と対策』をご一読ください。
GameFiプロジェクトの事例
・Axie Infinity
・STEPN
・Jobtribes
・Star Atlas
・ALIEN WORLDS
・Splinter Lands
経済活動を含めた他者とのやり取りが可能な仮想空間 “メタバース”
メタバースは、他者とのやり取りや経済活動が可能な仮想空間です。
ユーザーはアバターを通じて他の人と交流することはもちろん、スマートコントラクトを利用した決済システムも搭載されているため、店舗を開いて商業活動を行うこともできます。
また、メタバース内のアイテムや通貨をNFTやFTにすることで、現実世界とは別の経済圏を持つ世界を構築することが可能となります。
ただし、DecentralandやThe Sand Boxのような事例から仮想空間だけ用意しても自然発生的にUGCは作られないということが判明したため、現在は運営主導でコンテンツを拡充する方向に舵を切っています。
また、この結果を受けてコミュニティやコンテンツを先に成長させ、その後にメタバース化を計画するプロジェクトが増えています。
特にファッションブランドやゲーム業界のように、コミュニティやコンテンツが中心となる分野とは相性がよく、将来的にメタバース化を検討しているプロジェクトが多く見られます。
メタバースの事例
NFTもFTも使わないパターン
NFTもFTも使わないが、これらを使ったWeb3事業をサポートする周辺事業があります。
NFTの売買に欠かせない “NFTマーケットプレイス”
NFTは売買できますが、取引相手を見つけるにはマーケットプレイスが必要です。
NFTマーケットプレイスは、取り扱うNFTの種類やユーザー数が多いほどネットワーク効果が働くため、初期から存在しているOpenSeaが現在も最大の規模を維持しています。
しかし、競合するNFTマーケットプレイスも様々な方法でユーザーを獲得しようと工夫しており、常に覇権争いが繰り広げられています。
ESG活動やWeb3事業への入口として最適な “ゲームギルド”
ゲームギルドはGameFiのNFTを大量に購入し、それをユーザーに貸し出して、報酬をプレイヤーと分配するビジネスモデルです。
ゲームギルド事業はGameFiのスカラーシップ機能を活用して、経済的に困難な多くの人々に資産を分配できる仕組みであり、ESGの文脈で取り組む組織が多く見られます。
10. スカラーシップによる支援活動
— Hosogane|NFT Game Guild “LGG” (@Hosogane_LGG) March 4, 2022
さらにスカラーシップによる途上国支援にも力を入れています。
2021年にフィリピンを大型台風が襲った際には、有志のオーナーで義援金を集め、スカラーの家族や周囲の方に、約60万SLP(US2万ドル=約220万円)を送金。
日常的にも感謝のメッセージが届いています。 pic.twitter.com/2CR8NChvmF
また、ゲームギルドとしてWeb3業界に参入した後、自社の強みを活かした別のWeb3事業を展開するケースも多く見られます。
当サイトの運営であるLGGも、設立当初はゲームギルドとしてスタートしましたが、現在はWeb3プロジェクトのコンサルティング事業にシフトしています。
Web3事業に参入しているWeb2業界
ここまでで、現在展開されているWeb3事業をご理解いただけたかと思いますので、ここからは自社で展開できるweb3事業のイメージをより鮮明にしていただきます。
Web3の各ジャンルにどのようなWeb2企業が参入しているかを見てみましょう。
参入しているWeb2業界 | Web3事業 |
---|---|
ファッションブランド・アート・ゲーム・エンタメ・スポーツ・鉄道・自動車・出版・建築 | アート・コレクティブ・PFP |
飲食・宿泊・イベント・セミナー・映画・旅行・地方創生・農業・ゴルフ・不動産 | チケット・会員権 |
医療・人材 | セキュリティ・証明書 |
ゲーム・エンタメ | NFTゲーム |
金融・保険 | DeFi |
様々な業界が参入 | トークンインセンティブ |
ゲーム・SNS | プラットフォーム |
ゲーム | GameFi |
ゲーム・ファッションブランド | メタバース |
ネットスーパー | NFTマーケットプレイス |
様々な業界が参入 | ゲームギルド |
ファンコミュニティの形成には「アート・コレクティブル・PFP」や「トークンインセンティブ」
toCビジネスを展開している企業は、コミュニティ形成が事業に大きく影響するため、トークンインセンティブを積極的に活用しています。
中でもコレクティブルNFTアートはブランドやIPの立ち上げや育成と相性が良いため、有名ファッションブランドや鉄道など、熱烈なファンが存在する事業を展開している企業は積極的に活用しています。
NFTを中心としたコミュニティで新たなブランドを立ち上げたり、NFTホルダーにブランドの商用利用権を渡すなどの設計もあり、プロジェクト設計次第では無名ブランドが一瞬で世界規模の有名ブランドになる可能性も秘めています。(BAYCはその代表例です)
また、トークンインセンティブにFTを活用する場合は、FiNANCiEのようなプラットフォームを利用してプラットフォームのFTを利用するケースが増えてきています。
キャンセルリスクがある事業は「チケット・会員権」
飲食・宿泊・イベント・セミナー・映画・旅行などの常にキャンセルのリスクを抱えている事業は、予約券をNFT化して二次流通を可能にすることで、キャンセルリスクを減らすことができます。
また、ゴルフなどの会員権もNFT化して二時流通を可能にすることで、購入のハードルを下げることができます。
正確な個人情報を要する業界は「セキュリティ・証明」
人材や医療など、正確な個人情報とその保護が求められる業界においては、NFTが活用され始めています。
例えば人材業界では履歴書や職務経歴書が自己申告になっていますが、キャリアや実績をNFTに記録し、それを職務経歴書として扱う企業が出ています。
また、医療の分野ではオンライン診療が増える中で、医療情報の施設関連系における個人情報保護と処方せんの電子化が喫緊の課題となっており、NFTを活用することでこれらの問題を解消する実証実験が行われています。
FTを使用する事業の多くが試行錯誤の段階
トークンインセンティブは新たなマーケティング手法として既存事業を成長させる可能性を秘めているものの、FTを使用する場合は価格の安定化が難しく、多くの企業が設計や開発で試行錯誤している段階にあります。
既存のビジネスモデルが既に破綻しているソーシャルゲーム業界とFTが普及した際に市場を奪われることが分かりきっている金融業界は課題意識が強いため、早い段階でプロダクトがリリースされましたが、実はその他の多くの業界も水面下でWeb3プロジェクトを進めているのです。
それらのサービスも目にする日も、そう遠くはないでしょう。
Web3事業の4つの課題
① 安定したトークン経済圏の型が確立されていない
独自トークンを発行する場合、ユーザーに安心してサービスを利用してもらうには、トークンの価格を安定させる必要があります。
しかし、価格を安定させられるトークン経済圏モデルがまだ確立されておらず、今から事業を始める場合は新しい仕組みを考案して常に改善を繰り返していくフロンティアスピリッツが求められます。
※安定したトークン経済圏の構築に関する試行錯誤の歴史については、『【歴史に学べ!】Web3ゲームの発展と失敗の変遷総まとめ』をご一読ください。
② 法規制と税制が整備されていない
トークンに関する法律や税制は、国ごとに整備段階であり、国によっては実質的に事業が不可能な場合もあります。
2023年時点の日本では、FTの発行は実質的に困難で、国内の企業はFTの発行会社を別の国に建てるスキームを組んでいます。
また、規制は流動的に変化するため、法律や税制の最新情報は常に追う必要があります。
③ UXが未熟で使いにくい
Web3プロダクトを利用するには、
- ウォレットの作成
- 暗号資産取引所の開設
- FTのスワップ
などの一般的には馴染みのない作業がいくつも必要で、Web2に比べてUXが非常に複雑であるという問題があります。
この課題を解決しないと、限定的なユーザー層にしか利用してもらえないため、UXの改善が重要な課題となっています。
④ ユーザー数に比例する通信速度の制限とガス代の高騰
Web3は分散型ネットワークの性質上、ユーザーが増えるほど通信速度が遅くなるという課題を抱えています。
加えて通信にはガス代と呼ばれる手数料が必要で、より高いガス代を支払ったユーザーが優先的に通信されるため、ユーザーが増加するにつれてガス代も高騰してしまいます。
この課題もまた、Web3ユーザーを増やすうえで解決しなくてはならない重要課題であるため、現在進行形で重点的に取り組まれています。
Web3事業を始めるベストなタイミング
ここまで読んでいただいて、Web3事業に対してどのような印象を抱きましたか?
- いろいろ新しいことができることはわかった
- でも、技術的にも未熟で、まだまだ事業化できるレベルじゃないよね
- もうちょっと様子見しようかな
このように感じた方に、最後にWeb3事業の市況感についてお伝えしたいと思います。
ブロックチェーンの技術は社会実装するにあたり、上記のような様々な課題を抱えていたため、一般の目に触れることはありませんでした。
しかし実は、2000年代からずっと研究が続けられており、幅広い分野での開発も進められていました。
そしてついに、2020年後半になって、NFT/DeFi/GameFiが多くのユーザーを獲得したことで、一瞬で巨大な市場が形成されたのです。
繰り返しますが、たった3つの分野で、市場が形成されたのです。
水面下では、ユーザーが増えないために日の目を見ないプロジェクトが無数に存在しています。
そして、Web3における課題が解消されたとき、これらのプロジェクトが多数のユーザーを獲得することは、想像に難くないでしょう。
そうなった時の市場は、今の規模の比ではありませんし、今のうちに開発を進めていたプロジェクトがデファクトスタンダードになる可能性も十分にあります。
このweb3の大波は、インターネットが登場して以来40年ぶりであり、同じような機会はしばらく来ないであろうと言われています。
参入のタイミングは戦略次第ですが、市場が形成される前に参入することも、一考の余地ありです。
まとめ
本記事では、Web3が注目されている背景やWeb3による影響、課題、市況など、一通りお伝えしました。
Web3は、Web2によって生まれた独占的な状況に対するアンチテーゼとして注目され、ここ数年で一気に市場規模を拡大しました。
ブロックチェーン技術を活用した分散的なネットワークを構築することで、セキュリティの向上とデータの所有権をユーザーに移すことに成功し、Web2よりもはるかに利便性の高いサービスを構築できるようになりました。
一方で多くのユーザーを獲得するために解決しなければならない課題が複数あり、その解消が喫緊の課題となっています。
とはいえ、これらの課題を解決してユーザーが一気に増えた際は、あらゆる産業にWeb3が組み込まれ、今とは比較にならない市場規模に成長することが見込まれるため今のうちに本格的に参入する価値はあるでしょう。